複雑な課題を「賛成か反対か」と二択で問う――トランプ大統領を生んだジャーナリズムの反省と悔恨

10/12(金) 6:10配信

「最大の課題は、現実の複雑な問題をジャーナリズムがいつも単純化してしまうこと」と指摘するモーリー氏

『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、トランプ大統領を誕生させたジャーナリズムの機能不全について指摘する。

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なぜトランプ大統領が誕生したのか。それはわれわれジャーナリストが至らなかったからだ――。そんな反省の言葉から始まる長文記事が、アメリカのジャーナリストらが運営する非営利団体「Solutions Journalism Network」のウェブサイトに掲載されました。

ジャーナリズムの機能不全を正さない限り、この問題は克服できないだろうとの趣旨には、確かにうなずける点が多々あります。

最大の課題は、現実の複雑な問題をジャーナリズムがいつも単純化してしまうことです。例えば、トランプを支持する人と支持しない人の間には、彼らが表向き言い争っている内容よりも深い問題が横たわっている。

その問題を考えるきっかけはいくらでもあるのに、メディアはそこにフォーカスせず、「トランプが好きか嫌いか」と二者択一を突きつけ続けることしかできていません。問題を矮小(わいしょう)化させ、単にいがみ合うだけの状況をつくっているのはジャーナリズムである、との指摘です。

典型的だったのが今年2月、CBSテレビの人気番組『60ミニッツ』。民主党次期大統領候補との噂もある女優のオプラ・ウィンフリーが司会を務め、民主党支持者、共和党支持者、無党派の有権者14人と「トランプ政権の一年間」について討論したのですが、その中身はまったく生産的ではありませんでした。

オプラがあるトランプ支持者に「なぜ支持するのか」と問うと、その人物は滔々(とうとう)と理由を語るなかで「もう何が起きているのかわからなくて怖かったんだ」というニュアンスの話をしました。ここは本来、何よりも優先して掘り下げるべきでしょう。

ところがオプラはコメントを挟むことなく、制作陣もそれを要求せず、別のトランプ反対派に話を振って「トランプは憎い、悪魔だ」と言わせて終わり。単なる見世物にしてしまったんです。

またCNNでも、番組パーソナリティがトランプ支持者宅を訪問して説教する『トランプ・カントリー』というシリーズがありました。

知的なリベラルが、無教養な人の間違いを正す――番組内でたしなめられた当人はしょんぼりするだけですが、それをテレビで見た多くのトランプ支持者は「やっぱりリベラルはとんでもないエリート主義で、自分たちのことを全然わかっていない」と、怒りをより感じたでしょう。

メディアの本来の役割は、両者の間に対話をもたらすことのはずです。ところが、ジャーナリズムが複雑なものを複雑なまま伝えようとせず、視聴者や読者の正義感や怒りの感情をポルノのように追いかけ回した結果、今のアメリカがある。

トランプ大統領の就任後も、多くのリベラルメディアは「トランプは頭が悪い」「こんな政権は早くなくなればいい」などと言い続けるばかりで、極めて安易な道を選んでいます。

日本も状況は似たようなものでしょう。メディアは沖縄基地問題、憲法改正、原発再稼働といった極めて複雑な社会課題を「賛成か反対か」と二択で問う。そして両者の対立をあおる材料を広める。

そんなことより、なぜこういう問題が起こり、なぜそれに反対する人と賛成する人がいるのかを丁寧に解き明かし、本当の意味で社会に暮らす人々とコミュニケーションすることがメディアのあるべき姿だと僕は思っています。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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