鳴っているか分からないぐらいでいい―― 名曲を生み出してきた下村陽子がアニメ「ハイスコアガール」で目指した意外な曲作り

下村陽子さん (C)OSAMU NAKAMURA

 格闘ゲームブームに沸いた1990年代のゲームセンターを舞台に、少年・少女の熱い戦いと甘酸っぱい恋模様を描くテレビアニメ「ハイスコアガール」(原作:押切蓮介さん)。同作を象徴するゲームとして登場するのが、対戦型格闘ゲームの火付け役になったといわれるカプコンの名作「ストリートファイターII」(以下、ストII)です。

【画像】「ALPH LYLA」名義で発売された「ストII」のアルバム

 アニメのキャスト&スタッフが発表された際、多くのゲームファンの注目を集めたのが音楽にクレジットされた「下村陽子」の名前でした。下村さんは、劇中でも重要な役割を持つ「ストII」や「ファイナルファイト」といったゲームの音楽を手掛けた作曲家であり、まさに「ハイスコアガール」の音楽を担当するにはうってつけの人物といえるでしょう。

 ねとらぼでは、アニメの制作統括を担当したJ.C.STAFFのチーフプロデューサー・松倉友二さんに続き、下村さんにもインタビューを実施。制作の裏側から、効果音まで手掛けていたストII制作時のエピソード、アニメとゲームにおける音楽の役割といった話まで伺いました。

ゲーム音楽と被らない“アコースティック”な曲作り

―― 制作統括の松倉さんとは、2005年のアニメ「極上生徒会」以来のタッグですね。テレビアニメの音楽を担当するのは「DAN DOH!!」「極上生徒会」に続く3作目ですが、オファーが来たときはどう思いましたか?

下村陽子(以下、下村) 私でいいんでしょうか……って(笑)。ここ2年くらい大きなタイトルが重なって、ずっとばたばたしていたんですけど、作曲する時間は取れるかなー……と思える時期ではありました。結果的にはすごいばたばたになっちゃいましたけど(笑)。

―― 原作コミックはオファーがあってから読み込まれたそうですね。

下村 そのお話をいただいてから、資料として送っていただきました。一読したときは、さらっと読んですごく面白い作品だなと思ったんですけど、2回目はラブコメ感にキュンキュンしてしまって。以降の巻は全部自分で発売日に買っています。

―― 作曲する上でリクエストされたことはありましたか?

下村 こういうものはありました(「日常」「2人きりの状況」「春雄熱く」など、各曲のイメージが短い言葉で書かれたリストを指しながら)。最初にPV用の曲を作曲したのですが、そのリストにあるように「ガイル」を思い出させるような曲をと。PVを見た人からはガイルだガイルだって言われるんですけど、ガイルさんが出てくるところで掛かる曲っていう意味であって、アレンジというわけではないんです(笑)。

―― 下村さんというとピアノ曲の印象が強いですが、「ハイスコアガール」でも日常のテーマではピアノをよく使われていますね。

下村 ピアノと弦がメインですね。「ハイスコアガール」では当然ゲームの画面がよく出てきますし、ゲームの音も鳴るので、シンセとかを使うと雰囲気がかぶってしまう可能性がありました。それで真逆の方がいいかなと。いわゆる日常のシーンで掛かる曲は、ふわっとした雰囲気が作りやすいというのもあって、特殊なものを除いてアコースティックな雰囲気にしています。

―― 事前に全ての曲を聞いたのですが、確かに、ゲーム音楽と被らないような曲になっていると感じました。ただ一方で、どことなくゲーム音楽っぽいと感じる部分もありました。

下村 えー! やっぱり出ちゃうんでしょうか(笑)。よく、「この曲は下村陽子っぽいよね」とか「“下村節”が~」って言われますけど、下村陽子らしさってよく分からないんですよね。Wikipediaには「16ビートのバトル曲」って書かれていますけど、しっとりとした泣きの曲でも下村節と呼ばれたりするし。もちろん自分では、下村陽子っぽくしようと思って作っているわけではないんですけどね。

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