「片平里菜の物語はここからだ。」 大盛況のワンマン2デイズをレポート

撮影/古溪 一道

「閃光ライオット」から飛び出し、2013年にアジカン山田のプロデュースでシーンに登場、そこからすぐにメジャーデビュー。これが片平里菜のよく知られたシンデレラストーリーである。アコギ弾き語りとバンド編成を使い分けるスタイルと、透明感のある歌声、自然体の笑顔。長い髪をふわふわさせながら等身大の気持ちを歌にする女性シンガーソングライター、なのだと思っていた。

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事実、彼女は女の子の等身大を歌っていた。振り回されてしまう恋愛。傍にいるのに寂しくなる瞬間。背伸びしても憧れに届かないもどかしさ。あとは、華奢に見えて実は男よりタフなことを自覚していたり、奴らが勝手に抱くイメージに<私はそんな甘い子じゃない>と突っぱねる気の強さがあったり、時には<くたばれって吐き捨てて>しまう瞬間があるところも……。

え、そんなことまで歌ってんの? と耳を疑う瞬間が多数。言葉だけを書き出せば概ねパンクである。でも目の前にいる彼女は、派手なメイクをするわけでも汗を撒き散らして叫んでいるわけでもない。素でそういうことを歌にして、歌い終えると静かにはにかんでいるのだ。普段は口にすると角が立つことも歌でならはっきり言えますから、と思っているみたいに。

片平里菜が所属事務所を離れたと発表があったのは6月に入ってすぐのことだ。中には「このまま活動休止?」と考える人もいただろう。今回のクアトロ2デイズは、ネットではなく直接ファンに伝えるために急遽決定したライブである。最初のMCで彼女は真剣に語りかけていた。今回のことはすべて自分で選んだ選択。声が出る限りは歌っていたいと思っているし、そのために在り方とやり方を変えていきたい。ひとつひとつを自分で選択したい。自分の目と耳と手で掴んでいきたい、と。

文字にすると、またしてもパンク的だ。ただし現場でそんなニュアンスを感じなかったのは、彼女がとても爽やかに、悲愴感も反骨心もない様子で語っていたからだ。こういう時、たとえば身振り手振りで自分の属性をさりげなくアピールするのは非常に有効だ。J-ポップに見えるでしょうけど実はパンクですと中指でも立てていれば、私はヒュウと口笛を吹いただろう。逆も然りで、芯の強いシンガーって言われるけど本当は不安なのと涙をこぼせば、ファンはこれでもかと力強く忠誠を誓ったはずだ。でも片平里菜は一切そういうことをしない人だった。ただスッと話し、スッと歌に入る。この冷静さが一番強い、と思う。

そしてまた、生歌そのものが圧倒的だった。親しみやすいポップスだが、人工甘味料みたいなフックとか、べたついた媚びはまったくない。声色ひとつで全部を持っていく。透明な美しさ、気怠げな色気、同時に儚さや切なさがあり、強い生命力もあって、その喉にどれだけの人格が潜んでいるのかと驚いてしまう。さらには<私のこともっと知りたいでしょ?>と甘えてみせた直後<幻想だって言ってんだろ>とキッツい言葉を持ってくるのも最高だった。誰だって本音を探れば男らしさと女々しさが同居している。「かわいい女子」の属性を真っ先に放棄できるのは、彼女のフラットな強さを象徴している気がした。

歌は天賦の才だが、ただふわふわしているわけじゃない。たとえば同じ音程でも歌詞によって地声とファルセットを使い分け、ロカビリー調の「BAD GIRL」ではケレン味たっぷりにドスを聴かせるなど、一曲を通してのコントロールが見事。自分の喉をどう活かせばいいのか、ものすごく意識的に歌と向き合ってきたのだと思う。勝手なイメージは恐ろしいと猛省した。自然体の女のコどころじゃない。デビューから5年、髪をばっさり切り落とした今の片平里菜は、恐るべき実力派と呼ぶべきシンガーとしてステージを掌握していた。

「夏の夜」「泣き晴らした朝に」とタイトルのついた二日間。テーマは陰と陽のようで、初日にレディオヘッド、二日目はオアシスのカバーが聴けたのは貴重な経験だった。また代表曲は両日披露されていたが、初日ではっきりと心配のないこと、それどころか彼女が非常に前向きだとわかったから、フロアのノリは確実に二日目が勝っていた。特に良かったのは、惨めな恋に別れを告げるロックナンバー「Party」だ。吹っ切れたように次へと向かう意識は限りなく今の彼女に近いはず。そのニュアンスはファンに届いていた。<じゃなきゃやってらんない!>のパンチラインを全員が歌うシーンに思わず笑う。ヤケクソなのではなく、誰もがポジティヴな実感を持って今を楽しんでいるのが伝わってきたからだ。

11月14日に初のベストが発表になるが、それはただシングルを時系列にまとめたようなモノにはしない、と話していた彼女。それ以外にも、また全国に、みんなの街に必ず歌いに行くとの約束が交わされていた。片平里菜の物語はここからだ。私がそうだったように、漠然としたイメージだけでちゃんと触れていないリスナーは案外多いのだろう。つまり彼女には、今から攻めていくべき場所が無限にあるってことだ。
(取材・文/石井恵梨子)

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