米人気コメディアンの「人種差別炎上」で見えた米社会の分断

7/6(金) 6:44配信

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、米人気コメディアンの"人種差別ツイート"炎上について語る!

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アメリカの女性コメディアンのロザンヌ・バーが"人種差別ツイート"で炎上し、主演する人気コメディドラマ『ロザンヌ』が打ち切りとなりました。当該ツイートはオバマ前大統領の上級顧問に対する差別発言。トランプ支持を公言し、どこまで本気なのかわからないような極右的な陰謀論を繰り返してきた"炎上芸人"のロザンヌですが、今回のネタは許容範囲を超えていたようです。

この一件は日本でもそれなりに大きく報じられましたが、実は騒ぎには続きがありました。数日後、今度はリベラル系コメディアンのサマンサ・ビーが自身の番組内で、イヴァンカ・トランプ大統領補佐官に対し、女性差別を意味する卑猥(ひわい)な言葉を口にして炎上したのです。

発言の意図は、トランプ大統領の差別的な移民政策に対する抗議だったのですが、普段女性の権利を主張している側の女性蔑視発言ということもあり大問題に発展し、番組スポンサーは降板。さらに極右層や共和党支持層から「これがリベラルの正体だ」と批判の嵐にさらされています。

この一連の騒動は、アメリカ社会の言論が右を向いても左を向いても劣化しつつあることをよく表しています。ソーシャルメディア(SNS)が大衆煽動(せんどう)の加速装置となり、それを操るトランプ大統領が誕生。大統領自らが白人至上主義に"暗黙の理解"を示し、堂々と差別スレスレの発言をすることで、社会の分断がより激化していく。

大統領、政治家、著名人、そしてニュースメディアも、すべてがセンセーショナルな方向に偏り、その"テーマパーク"に漬かっているうちに攻撃的な発信の怖さについて鈍感になっていく。この悪循環の連続こそが、民主主義の落とし穴といえるのではないでしょうか。

そもそも民主主義とは、民衆が賢明さ(インテリジェンス)を持つ努力をし、その時代、その社会でより賢明な人たちが(血筋ではなく)選挙を通じて選ばれ、国や自治体を統治することで権力の恣意(しい)的な集積や横暴を防ぐという仕組みです。

もちろん実際には、社会の構成員すべてが賢明さを持つという前提自体が困難で、民主主義が生まれて以来ずっと、どんな社会でも合法的・合理的な議論から逸脱する人たちが一定層はいる。今回問題になったような差別的な言説もそういった形で、米社会の"アングラ言説"の世界でずっと続いてきました。

そんな表に出るべきではない言説が、SNSという煽動マシンの定着とともに、社会に堂々と顔を出すようになったのが今という時代なのでしょう。アメリカでは、言論の自由を徹底的に守るために生まれた「アメリカ自由人権協会」という組織が、人種差別も含むあらゆる言説を保護してきたという歴史があるのですが、今やその言論の自由に人々が無軌道に"寄生"し、手がつけられなくなりつつあるように見えます。

問題は、この傾向にブレーキをかける装置がわれわれの社会に組み込まれていないこと。だからこそ、「まず隗(かい)より始めよ」ではありませんが、今は人々に"自制"という知性が求められているのだと思います。自己啓発のような物言いになってしまいますが、ひとりひとりが自身と静かに向き合う時間を通じて、ファストフード的な喜怒哀楽ではない「ひらめき」を求めること。そうすることでしか改善の道は開けないでしょう。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送、隔週土曜出演)、『ザ・ニュースマスターズTOKYO』(文化放送、毎週火曜出演)などレギュラー多数。

■2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した待望の新刊書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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