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「新鮮さを失わないように」中谷美紀の作品への向き合い方

週刊ザテレビジョン創刊35周年企画として、本誌を彩ってきたテレビスターたちがテレビとの思い出を語るスペシャル連載。第5弾は、1993年の大ヒット作「ひとつ屋根の下」(フジ系)でドラマデビューして以来、数々の話題作で存在感を発揮してきた中谷美紀が登場。

【写真を見る】「ハルモニア―」では週刊ザテレビジョンドラマアカデミー賞主演女優賞を受賞!/©浅井佳代子

■ デビュー時は緊張で震えた

見る者を魅了する美麗なルックスは今も変わらないが、本人はデビュー当時の本誌グラビアを見て「まるまるしている」と苦笑。「ひとつ屋根の下」では、舞台女優の役だった。「セリフは2つか3つぐらいでしたけれど、それまでお芝居の経験はゼロだったので、現場では緊張のあまり震えていました」と振り返る。それから「長男の嫁2〜実家天国」(1995年TBS系)、「Days」(1998年フジ系)などを経て、「ハルモニア・この愛の涯て」(1998年日本テレビ系)で堂本光一と共演し、連ドラ初主演。言葉を理解できない少女・由希を好演し、週刊ザテレビジョンドラマアカデミー賞主演女優賞も獲得した。

「由希は、セリフが一つもない役。実験的な手術を受けたことによって脳に損傷を受けてしまい、チェロを教えに来た秀行(堂本)に対しても全くリアクションしないという設定でした。人間の感情を除外しなければいけないので、時々無性に声を出したくなりました。このドラマで、演技ではただ感情を出すだけでなくて、抑えることが必要だということ、役柄にはいろんな幅があるということを教わりました。でも、実は動かなくて済みますし、難しい演技に見えるということで、ラッキーだったかも(笑)。ドラマアカデミー賞主演女優賞を初めていただいたのもうれしかったですね」

そのときの受賞コメントでは「私はまだお芝居というものがよく分かっていない」と語っていた。演技力を高く評価されている現在の彼女からは想像できないが、「今でも、気持ちとしてはあまり変わっていなくて、お芝居に自信なんて持てないですよ」と謙虚に語る。

■ 演技の楽しさを知った堤幸彦監督との出会い

「ハルモニア―」と同時期に映画「リング」(1998年〜)シリーズにも出演し、一気にトップスターの座へ。そして、1999年には西荻弓絵脚本、堤幸彦演出の「ケイゾク」(TBS系)で、東大法学部卒のキャリア刑事、天才的な頭脳を持つ柴田純を演じた。これがハマり役となり「犯人、分かっちゃったんですけど」という決めゼリフと共に新たな魅力を発揮した。

「柴田を演じている間は、女性らしさを意識せずに現場にいました。オールロケだったこともあり、廊下で寝たりしてましたね。役のためにも、あえてそうしていた記憶があります。『ケイゾク』は、とにかくセリフの量が多かったんです。でも、当時はまだ23歳で若かったので、そんなに練習もせず、憶えられたんですよね。今思えば、何で憶えられたんだろう(笑)。急にセリフが変わったり、台本がなかなか届かなかったりしたのに、セリフ憶えがそんなに大変とは思っていませんでした。怖いもの知らずだったのかもしれません」

柴田と先輩刑事・真山(渡部篤郎)の凸凹コンビ、パロディーや小ネタの連発とちりばめられた謎など、堤作品らしいスタイルが確立されたドラマでもあった。熱狂的なファンがついて、翌年には「ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer」(2000年)として映画化され、ヒットした。

「連続ドラマのとき視聴率が爆発的に良かったわけでもないのに、映画になって、たくさんの方にご覧いただけたのはありがたかったですね。当時はまだドラマから映画になるという作品が今ほど多くはありませんでした。堤監督とは『ハルモニア―』に続けてお仕事させていただいたのですが、映像に大変こだわりがある方で、カット割りもリハーサルから決まっていて、そのビジョンに近づくため、たくさんのショットを重ねていくという現場でした。時間はかかりますが、長回しなのでお芝居はしやすかったです。セリフはコミカルでしたし、アドリブもふんだんに入って、“演技って楽しいんだ”ということを教えていただいた作品です。それまで、お芝居するのは仕事!という感じで、“しっかりやらなければ”というプレッシャーの方が大きかったのですが、まだまだ演技の素人ながらも楽しみを覚えました」

主題歌「クロニック・ラヴ」もドラマと共に記憶されている曲。坂本龍一のプロデュースで歌手活動をしていた中谷が、坂本の名曲をカバーし、自ら歌詞を書いたものだ。

「私は本当に坂本龍一さんのいちファンなので、『バレエメカニック』を歌わせてくださいと、自分からお願いしました。ずっと歌ってみたかった曲なので、夢がかなったんです」

■ 悩みから救ってくれた大先輩からの一言

女優としても歌手としても、一つの到達点となった「ケイゾク」。その後も「永遠の仔」(2000年日本テレビ系)、「R-17」(2001年テレビ朝日系)と年に2、3本ペースで連ドラに出演した。

「いったん演技が楽しいと思ったのに、そこからまた悩み始めてしまって…。『永遠の仔』は幼児虐待のトラウマを描く難しい作品でしたね。『R-17』では、大先輩の桃井かおりさんと共演させていただきました。桃井さんから『休むのよ』とアドバイスされました。多分、ハイペースで仕事し過ぎだということなのでしょうが、そう言われてみて、私もおぼろげながら“休みたい”と思っていたことを自覚しました。休むことをそんなに“はばかる”必要がないのだなと、目からウロコが落ちたような気分。20代前半までは、いったん撮影に入るとほとんど休みもないですし、不眠不休で働き続け、“日常”というものがなかった気がします。完全に仕事中心で。でも、それからは出演の間隔を少し空けて、休みの間に過ごす日常の中にも演技の大事なエッセンスが詰まっている、ということを実感してきました」

そんなふうにインプットとアウトプットのバランスが取れたころ、出演した「JIN-仁-」(2009年)、「― 完結編」(2011年、共にTBS系)では、主人公の医師・南方仁(大沢たかお)がタイムスリップした幕末の江戸で出会う吉原の花魁・野風を演じた。

「野風役は、花魁としての気高さと強さのバランスをはかることが難しかったですね。そして現場では、何よりも頭と着物が重くて、美しい姿勢を保つのに苦労しました。かつらはスタッフの方が極力、軽くしてくださったのですが、そこに重いかんざしを何本も刺すので…。いかに完成した髪を崩さずに休憩するかというテクニックを追求しました(笑)。しかし、本気で寝てしまったことがあり、あるとき気が付いたら共演の綾瀬はるかさんが私のことを見て笑っている。眠っている間にかつらがズレてしまっていたんです」

時代劇では2014年に大河ドラマ「軍師官兵衛」(NHK総合ほか)にも出演。主人公・官兵衛(岡田准一)の妻・光を10代の時点から演じた。

「『課題は若作り』なんて言っていたのですが、撮影はとても楽しかったです。着物や日本文化が大好きなので、NHKの美術スタッフさんが隅々まで作り込んだお庭を見ているだけでも楽しく、立派な植木を自宅に持って帰りたい!と思ったぐらい。あいにくうちには庭はないのですが(笑)。そして、岡田さんとは『恋愛偏差値―』(2002年フジ系)でも共演しましたけれど、すっかり立派な“殿”になっていて、頼もしかったです」

■ キャリアを積んでも挑戦する心は忘れない

ここ数年は先の読めないサスペンス「ゴーストライター」(2015年フジ系)で作家の遠野リサ役、コミカルな「私 結婚できないんじゃなくて、しないんです」(2016年TBS系)で独身アラフォーの橘みやびを演じた。女性の作り手と組むことも増えている。

「『ゴーストライター』は、橋部敦子さんの脚本と土方政人さんの演出が素晴らしくて、毎回、心を動かされていました。オリジナル作だったので、私が演じた作家のリサと、ゴーストライターの由樹(水川あさみ)が最後にどうなるかは分からず、水川さんの器用さに助けられながら最終回まで演じましたね。『私 結婚できない―』は、水野敬也さんの原作がありますが、脚本・金子ありささんの書かれた企画書が面白過ぎて、人目もはばからず笑ってしまったのは初めてでした。絶対にお引き受けしたいと思いました。ドラマ本編では、藤木直人さん演じる恋愛カウンセラーの十倉誠司から結構ひどいことを言われるんです。『プレ更年期のうぬぼれ女』とか(笑)。でも、ディレクターの塚原あゆ子さんがとても細やかな演出をしてくださったので、過激に見える場面でも安心して委ねることができました」

「私 結婚できない―」では藤木と一緒に長ゼリフの練習をし、本番でポンポンとテンポ良く掛け合いをする。それがとても楽しかったとか。

「コメディーは演じていて発散できるんですよね。笑いのさじ加減は難しいけれど、脚本の意図と役者の呼吸と演出がぴたりとハマったときには、幸せだなと思います。年を追うごとに、世の中がどんどん世知辛くなってしまっている気がして…。こんなときだからこそ、せめてドラマでは皆さまに笑っていただけたら。本当は淡々とした日常を描く作品も好きなのですが、今はそういうものがハマらない時代なのかもしれません」

ドラマ最新出演作は「連続ドラマW 東野圭吾『片想い』」(WOWOWプライム)。女性として生まれながら自らは男性であると思う主人公・美月を演じる。性同一性障害を抱えるチャレンジングな役だ。

「この役はむしろ男性が演じた方が良いのではと迷ったのですが、挑戦してみました。新しい作品では極力、演じたことのない役柄を選ぼうと思っています。一人の人間なので限界はあって、声も体も顔もそんなに変えられるものではないけれど、新鮮さを失わないように心掛けています。でもここまで来たら、もうそんなに引き出しがありませんが(笑)」

これまでのキャリアに甘えず、自分を客観視し、さらに新しいものを見せようとする。現在、映画や舞台でも活躍しているが、ドラマは欠かすことのできないステージの一つだ。

「ドラマの現場にいると、やはりスタッフの方は大変だなと実感します。そんなハードな作業があり、時間に制限がある中で物語を作り、役者がセリフを憶えて演じ、演出や編集が加わって完成したパッケージにする。そのプロセスがテレビの歴史と共に何十年も変わらず続いているのはすごいことですよね。この先少しずつ体力が衰えていくのでしょうけれど、連ドラはとにかく肉体労働であり季節労働でもあるので、日々体力を失わないように山を歩いたり、自転車に乗ったりして足腰を鍛えて撮影に備えています」

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